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Work IQ・Fabric IQ・Foundry IQ・Web IQ の違いと使い分け

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Work IQ・Fabric IQ・Foundry IQ・Web IQ の違いと使い分け

Microsoft の AI 関連情報を追っていると、Work IQFabric IQFoundry IQWeb IQ という似た名前が登場します。どれも AI エージェントへコンテキストを渡す仕組みですが、対象とする情報は同じではありません。

この記事では、4つの概要と違いを整理したうえで、問い合わせ対応エージェントを例に「どの IQ を、どの場面で使うか」を具体化します。読み終えたときに、自分のユースケースで最初に検討すべき IQ と、組み合わせ方を判断できることがゴールです。

目次

先に結論

4つの違いは、エージェントに渡したいコンテキストを主語にすると整理しやすくなります。

サービスエージェントに理解させるもの代表的な情報向いている問い
Work IQ人がどのように仕事をしているかメール、会議、チャット、ファイル、人、予定「この案件で誰が何を話していたか」
Fabric IQ事業が現在どのような状態か顧客、注文、在庫、設備、KPI、リアルタイムイベント「在庫と配送状況から何が起きているか」
Foundry IQ組織として何を正しい知識とするか規程、マニュアル、FAQ、技術文書「規程上どう回答すべきか。根拠はどこか」
Web IQ組織外でいま何が起きているかニュース、公開 Web サイト、最新の市場・製品情報「今日公開された情報では何が変わったか」

選び方もシンプルです。

ただし、これは4択ではありません。それぞれを組み合わせれば、組織内外のコンテキストを Agent へ渡せます。たとえば顧客対応では、Work IQ で担当者のやり取りを確認し、Fabric IQ で注文の現在地を調べ、Foundry IQ で返品規程を確認し、Web IQ で配送会社が公開した最新の障害情報を調べる、という役割分担ができます。

Microsoft IQ とは

Microsoft IQ は、Copilot や AI エージェントの応答を、組織に対する共通かつ継続的に更新される理解で根拠付けるための統合インテリジェンス層です。

2026年8月6日時点の公式ドキュメントでは、Microsoft IQ は次の4つの能力で構成されています。

能力提供するコンテキスト
Work IQ人、共同作業、ワークフローを含む、従業員の仕事に関する理解
Fabric IQ業務エンティティ、その関係、プロパティ、アクション、ルールを含む、事業の現在地
Foundry IQポリシー、権威ある文書、再利用できるナレッジベースを含む、組織の知識
Web IQWeb 上の新しい現実世界の情報

これらに共通する狙いは、汎用モデルが最初から知らない組織内外の情報やコンテキストをエージェントへ与えることです。一方で、情報を取得する場所、意味付けの方法、回答後に実行できるアクションが異なります。

4つの IQ の違い

実装を考える前に、主な違いを比較します。

比較軸Work IQFabric IQFoundry IQWeb IQ
中心となる役割職場のコンテキストと操作業務データの意味と状態検索可能な組織知識最新の公開 Web による根拠付け
主なデータ領域Microsoft 365 と接続された業務システムOneLake、Power BI、リアルタイム・運用データAzure Blob Storage、SharePoint、OneLake、Web などBing が索引化した公開 Web、指定ドメイン
中心となる仕組みChat、Context、Tools、Workspacesセマンティックモデル、オントロジー、Graph、各種 AgentAzure AI Search(基盤)、Knowledge Base、Knowledge Source、Agentic RetrievalWeb Search、Grounding with Bing Search
得意なことユーザー権限で仕事を探し、推論し、操作する表や列を顧客・注文などの業務概念へ引き上げる複雑な質問を分解し、複数ソースから引用付きで回答するモデルの知識期限を越えた公開情報を検索し、URL を引用する
代表的な利用者Microsoft 365 を使う従業員と、その業務を支援する Agentデータ・分析・業務運用に関わる人と AgentAgent や RAG アプリを開発・運用するチーム最新の外部情報を必要とする Agent とアプリ
単独利用可能可能可能可能

利用基盤とライセンス前提

導入時は、扱うコンテキストだけでなく、各 IQ が依存するサービスと利用経路ごとの条件も確認します。

IQ利用基盤・主な前提
Work IQMicrosoft 365 を基盤とする。Work IQ API は Microsoft 365 Copilot ライセンスとは独立した Copilot Credits の従量課金で利用できる一方、Microsoft 365 Copilot のエクスペリエンスや一部の MCP 経由では Microsoft 365 Copilot ライセンスが必要
Fabric IQMicrosoft Fabric を基盤とする。対象 Item へアクセスできる Microsoft Fabric ライセンスに加え、機能に応じたテナント設定、ワークスペース、Capacity が必要
Foundry IQAzure AI Search の Knowledge Base が必須。Microsoft Foundry portal から構成したり Foundry Agent Service と統合したりできるが、これらの利用は必須ではない
Web IQMicrosoft Foundry Agent Service の Web grounding tools。Basic または Standard の Agent environment、対応する Azure OpenAI モデルのデプロイ、Tool の設定が必要。一般的な Web Search では追加の Bing resource は不要

必要なライセンス、Capacity、ロールは、利用する API、Item、Tool や提供段階によって異なります。本番導入前に、採用する経路の前提条件と料金を個別に確認してください。

境界が重なる部分もあります。たとえば SharePoint は Work IQ から「ユーザーが仕事で扱うファイル」としてアクセスでき、Foundry IQ から「ナレッジベースの知識ソース」として検索できます。

この場合の判断軸は保存場所ではなく、仕事の流れの中でユーザーの文脈と操作が必要なのか、管理された知識として複数の Agent から再利用したいのかです。

Work IQ は仕事の文脈を扱う

Work IQ は、Microsoft 365 と外部システムにまたがる組織データ、コンテキスト、ツールへ Agent がアクセスし、推論するための workplace intelligence layer です。

公式ドキュメントでは、Work IQ を次の4つの要素で説明しています。

要素役割
Chat会話の継続や Agent 間の委任を含む、対話型の知能
Context組織データを Agent が使えるコンテキストへ組み立てる
ToolsMicrosoft 365 のデータ取得や作成・更新などのアクション
Workspaces長時間の処理で中間データや成果物を保持する作業領域

A2A、MCP、REST といった標準的な方法で利用でき、メール、予定表、ファイル、人、チャット、サイトなどを扱えます。各リクエストは特定ユーザーのコンテキストで実行され、そのユーザーが見たり操作したりできる範囲に制限されます。

Work IQ が向いている場面

実際に試した使い方:Teams 会議から宿題を整理する

私自身も、VS Code、GitHub Copilot、Work IQ を組み合わせて、参加した Teams 会議の記録から、その日の宿題やタスクを整理しています。顧客情報を含むため実際の出力は公開できませんが、処理の流れは次のとおりです。

利用者の依頼をGitHub Copilotが解釈し、VS CodeのMCPクライアントからWork IQ MCPを呼び出してMicrosoft 365の会議記録を取得し、Markdownへ整理する構成図利用者自然言語で依頼GitHub Copilot意図を解釈Toolと引数を選択VS CodeMCP client構造化されたTool callWork IQ MCPask / fetch / call_functionなどMicrosoft 365へ接続Microsoft 365Teams会議・トランスクリプト予定・チャット・ファイル依頼会議記録などの結果を返すMarkdownへ整理優先アクション決定事項・宿題・期限人が確認誤認識・担当・期限共有・登録を判断Microsoft Entra IDサインインユーザーの権限 + アプリのOAuth権限 + テナントポリシー
図1: VS Code、GitHub Copilot、Work IQ MCPでTeams会議の宿題を整理する構成イメージ

利用者の依頼文がそのまま Work IQ へ転送されるというより、GitHub Copilot の Agent が依頼の意図を解釈し、利用可能な Work IQ MCP tool と引数を選びます。VS Code は MCP client として構造化された tool call を Work IQ MCP server へ送り、返された Microsoft 365 のコンテキストを GitHub Copilot が Markdown へ整理します。

Work IQ MCP server で利用できる tool には、Microsoft 365 Copilot へ自然言語で問い合わせる ask、Microsoft 365 entity を取得する fetch、検索などの function を呼び出す call_function などがあります。実際にどの tool が選ばれるかは依頼内容と利用できる tool によって変わるため、この図では特定の1つに固定していません。

  1. その日に参加した終了済みの会議を確認する
  2. 各会議のトランスクリプト、議事録、会議チャットなど、利用できる記録を確認する
  3. 会議ごとに概要、主な要点、決定・確認事項をまとめる
  4. 宿題を内容、担当、期限の形で抽出し、日全体の優先アクションとして集約する
  5. 記録がない会議や、担当・期限を特定できない項目は、推測せず「確認できない」「要確認」と明記する

この使い方では、複数の会議を順番に開いてメモを見返さなくても、その日に何が決まり、自分やチームにどのアクションが残っているかを1つの Markdown ファイルで確認できます。VS Code 上に出力することで、内容を手元でレビューし、必要な修正や追記をしてからタスク管理へ反映できる点も便利です。

一方、トランスクリプトには音声認識の誤りが含まれる可能性があります。Work IQ と GitHub Copilot が生成した結果をそのまま社外共有や正式なタスク登録に使わず、担当者、期限、固有名詞を人が確認する運用が必要です。また、記録が存在しない会議について、会議名だけから議論内容を推測させないことも重要です。

ポイントは、単なる文書検索だけでなく、誰の仕事かという文脈を保ちながら、取得からアクションまでつなげられることです。

Fabric IQ は事業の状態を扱う

Fabric IQ は、OneLake 上の分析・リアルタイム・運用データを統合し、それを事業の言葉で解釈できるようにする Microsoft Fabric の能力です。

データベースに customer_idshipment_status という列があっても、それだけでは Agent が「顧客が注文し、その商品が配送され、遅延が売上へ影響する」という業務上のつながりを一貫して理解できるとは限りません。

Fabric IQ では、Power BI セマンティックモデルやオントロジーを使って、次のような概念を定義・再利用します。

Fabric IQ の基盤は OneLake です。Power BI セマンティックモデルによる信頼済み KPI、オントロジーによる共通の業務語彙、関係をたどる Graph、自然言語で分析する Data Agent、リアルタイムの状態を監視する Operations Agent などを組み合わせます。

架空の販売・配送・経理システムで考える

Fabric IQ を具体的に理解するため、Web 販売を行う企業に、販売部、配送部、経理部の3つの業務システムがあるケースを考えました。各システムは独立した Azure SQL Database を使い、受注、配送手配、入金確認などの基幹処理は引き続き既存システムが担当します。

確認したいのは、個々のシステムを置き換えることではなく、次のような部門横断の問いです。

このケースでは、次の順番でデータへ意味を与えます。

  1. 3つの Azure SQL Database を Fabric Mirroring で OneLake へ継続的に複製する
  2. 共通の Order ID、または各システムの ID を対応付けるマッピングテーブルを使い、注文単位の統合ビューや統合テーブルを作る
  3. Ontology で CustomerOrderInventoryAllocationShipmentPayment などの業務概念と関係を定義する
  4. 利用者や Agent が、物理的なテーブル名ではなく「注文」「配送」「入金」という業務用語で状態を確認する

Mirroring では、Azure SQL Database 自体やデータベースファイルを OneLake へ移すわけではありません。元データを分析向けの Parquet / Delta Table として複製し、読み取り専用の SQL analytics endpoint を自動生成します。元の Azure SQL Database はトランザクション処理を続け、OneLake 側を横断的な検索、分析、監視に利用します。

ただし、Mirroring しただけでは3つの業務テーブルが並ぶだけです。注文の現在地を一貫して判断するには、共通の Order ID を各システムへ引き継ぐか、販売・配送・経理の ID 対応表を管理する必要があります。氏名、金額、注文時刻などを使った後付けの推測結合は、誤判定につながるため避けます。

Ontology では、たとえば「Customer が Order を作成する」「Order に Shipment と Payment が関連する」という意味を定義し、実際の OneLake 上のデータへバインドします。これにより、同じ業務用語と関係を Power BI、Agent、監視処理で再利用できます。

問い方によって入口を変える

同じ統合データを使う場合でも、利用目的によって適した入口は異なります。

やりたいこと適した方式理由
注文番号を指定し、決まった項目を返すSQL analytics endpoint固定形式の参照を T-SQL で明示できる
「配送待ちの注文を教えて」のように質問するFabric Data AgentSQL、DAX、KQL などを生成し、自然言語で読み取り専用の回答を返す
処理が一定時間止まった注文を継続監視するOperations Agentルールを定期評価し、Teams 通知や承認付きアクションへつなげる
複数部門の概念と関係を共通化するFabric IQ Ontologyデータを業務用語と関係へ引き上げ、各体験から再利用できる

Fabric Data Agent は custom app を含む外部の Agent からも利用できますが、データアクセスは読み取り専用です。受注変更や配送手配などの更新は、Fabric から元データベースを直接書き換えるのではなく、既存システムの正式な API やワークフローへ渡します。

また、2026年8月6日時点の Fabric Data Agent は非英語の質問、指示、例示をサポートしていません。日本語の Bot を作る場合は、Agent 間で英語へ変換する設計や、回答品質の検証が別途必要です。

この構成でも残る設計課題

この例で理解しやすかったのは、Fabric IQ が単なる「複数データベース検索 API」ではないことです。Mirroring と統合処理でデータを利用可能にし、その上に Ontology で業務上の意味と関係を与えることで、初めて人や Agent が「この注文はいま入金待ち」と事業の状態として解釈できます。

Fabric IQ が向いている場面

2026年8月6日時点では、Fabric Data Agent と Operations Agent は GA ですが、Fabric IQ の IQ workload と Ontology などには preview の機能が含まれます。実運用へ採用する前に、利用する各 Item の提供状況を個別に確認する必要があります。

Foundry IQ は組織の知識を扱う

Foundry IQ は、複数の Knowledge Source を Knowledge Base にまとめ、Agent が組織固有の情報を権限に応じて検索できる managed knowledge layer です。Azure AI Search の代替サービスではなく、Azure AI Search を基盤として、その検索機能を Agent 向けの再利用可能な知識として扱いやすくするレイヤーです。

主な構成要素は次の3つです。

構成要素役割
Knowledge Sourceインデックス化されたコンテンツやリモートコンテンツへの接続
Knowledge Base検索する Knowledge Source と検索時のパラメーターをまとめる最上位リソース
Agentic Retrieval質問の分解、並列検索、セマンティックリランキング、回答の統合

Foundry IQ は、インデックス化される Knowledge Source の文書について、チャンク分割、ベクトル埋め込み、メタデータ抽出を自動化し、定期的な indexer 実行による増分更新を構成できます。また、インデックス化された Knowledge Source とリモート Knowledge Source に対して、キーワード・ベクトル・ハイブリッド検索を実行できます。検索結果には引用を含められるため、Agent の回答を元文書までたどれます。

1つの Knowledge Base を複数の Agent から共有できる点も重要です。規程検索をする Agent ごとに個別の RAG パイプラインを構築するのではなく、管理された知識層として再利用できます。

Azure AI Search から置き換えるものではない

Foundry IQ の導入は、Azure AI Search を別サービスへ置き換える移行ではありません。Foundry IQ の Knowledge Base と Agentic Retrieval は Azure AI Search 上に作成され、Azure AI Search がインデックス作成と検索の基盤を引き続き担当します。

既存の Azure AI Search index が Agentic Retrieval の要件を満たしていれば、そのテキストやベクトルを Search Index Knowledge Source として再利用できます。したがって、構成は次のように考えると理解しやすくなります。

Foundry Agent / Custom App

Foundry IQ Knowledge Base
  ├─ Knowledge Source A
  ├─ Knowledge Source B
  └─ Knowledge Source C

Azure AI Search

Foundry IQ を追加するメリットは、検索エンジンを変更することではなく、これまで Agent や RAG アプリごとに実装していた検索のオーケストレーションを Knowledge Base 側へ寄せられることです。

たとえば「有給休暇の申請条件と、海外勤務者だけに適用される例外を教えて」という質問では、人事規程と海外勤務規程を別々に検索し、その結果を統合する必要があります。Azure AI Search の従来型の単一 query でもアプリ側に処理を実装すれば対応できますが、Foundry IQ の Agentic Retrieval は質問の分解、検索先の選択、結果の統合を Knowledge Base の検索フローとして扱えます。

一方、すべての検索を Foundry IQ へ変更する必要はありません。

要件適した方式理由
商品番号や文書 ID を指定する単純な検索Azure AI Search を直接利用単一 query で十分で、低遅延かつ構成が単純
query、filter、ranking を細かく制御するAzure AI Search を直接利用既存の検索パイプラインと制御を維持できる
会話の文脈を含む複雑な質問Foundry IQ質問の分解と複数回の検索を利用できる
複数の index や情報源を横断するFoundry IQKnowledge Source の選択と結果統合を共通化できる
同じ組織知識を複数の Agent で共有するFoundry IQKnowledge Base を共通の検索 endpoint として再利用できる

Agentic Retrieval は LLM による query planning と複数の検索を行うため、従来の単一 query より遅延が増えます。利用する構成によっては、Azure AI Search の retrieval token に加えて Azure OpenAI の input / output token も課金されます。まず既存の Azure AI Search index を Knowledge Source として接続し、同じ評価用質問で回答品質、引用、応答時間、コストを比較してから適用範囲を決めるのが現実的です。

Foundry IQ が向いている場面

2026年8月6日時点では、Foundry IQ は一般提供済みの機能とプレビュー機能が混在し、利用する Azure AI Search の REST API version によって提供状況が異なります。また、Microsoft Foundry portal と Azure portal から利用する Agentic Retrieval の機能はプレビュー扱いです。

Web IQ は最新の公開情報を扱う

Microsoft IQ の公式ドキュメントでは、Web IQ は AI システムと Agent に、Web 全体から新しい現実世界の情報を提供する能力と説明されています。

実装では、Microsoft Foundry Agent Service の Web grounding tools を使います。Agent が不足している情報を判断して検索クエリを作り、Bing から結果を取得し、その内容を回答へ統合して参照元 URL を示します。

主な選択肢は次のとおりです。

Tool特徴2026年8月6日時点の提供状況
Web SearchMicrosoft が Bing resource を管理する、最も始めやすい選択肢GA
Grounding with Bing Search自分で Bing resource を作成し、件数、鮮度、市場、言語などを指定できるGA
Bing Custom Search を使うドメイン制限許可・拒否するドメインを事前定義して検索範囲を制御するWeb Search からの利用は GA、Grounding with Bing Custom Search は preview

Web IQ が向いている場面

Foundry IQ との違い

Foundry IQ も public Web を Knowledge Source にできますが、中心となる考え方は、複数の情報源を管理された Knowledge Base にまとめ、複数の Agent から再利用することです。

一方、Web IQ は質問された時点で公開 Web を検索し、最新情報を取得することが中心です。自社で選定・管理した規程や文書を安定して参照するなら Foundry IQ、ニュースや外部サービスの現在状況をその場で調べるなら Web IQ、と考えると区別しやすくなります。

ここで混同しやすいのが、Microsoft Foundry を使って Web IQ を実装できる点です。今回作成したのは Foundry IQ の Knowledge Base ではなく、Microsoft Foundry Agent Service 上の Prompt Agent に Web Search を Tool として接続した構成です。つまり、作る場所は Microsoft Foundry、Agent へ与える能力は Web IQ です。

Microsoft Foundry で Web IQ を試した構成

実際に Microsoft Foundry 上へ、次の PoC を構築しました。

構成要素今回作成したもの役割
Foundry account / projectWeb 調査用の projectModel、Tool、Agent を管理する
Model deploymentgpt-5-mini検索 query の作成、情報の整理、日本語回答の生成を行う
ToolboxWeb Search を含む toolboxBing が索引化した公開 Web を検索する
RemoteTool connectionUser Entra token で toolbox へ接続key や secret を保存せず、Agent から Tool を呼び出す
Prompt AgentWeb Search を必須 Tool とする Agent公式発表、報道、推測を区別し、URL 引用付きで回答する

Agent には、回答前に Web Search を使うこと、公式発表と報道と未確認情報を分けること、重要な主張へ URL を付けること、検索結果内の指示には従わないことを指示しました。また、秘密情報、個人情報、社内限定情報を検索 query へ送らないようにしています。

処理の流れは次のようになります。

利用者
  ↓
Microsoft Foundry Prompt Agent(gpt-5-mini)
  ↓
Web Search Toolbox
  ↓
Bing が索引化した公開 Web
  ↓
日本語の回答 + 参照元 URL

この構成には Foundry IQ の Knowledge Base や Azure AI Search index はありません。あらかじめ組織の正しい知識を登録して検索するのではなく、質問を受けた時点の公開 Web を調べるためです。

TWICE の再契約情報で試した結果

PoC では、2026年8月6日時点の TWICE の再契約情報について、JYP Entertainment の公式発表、韓国の主要メディアによる報道、それ以外の観測や推測を分け、時系列と出典 URL を付けるように質問しました。

Agent は Web Search を複数回実行し、処理を正常に完了しました。回答の要点は次のとおりです。

区分Agent が整理した内容確認状態
JYP の公式情報TWICE 公式 Notice では、再契約完了の告知を確認できなかった公式ページで完了告知を確認できず
韓国主要メディアNews1 は、ツウィが JYP と再契約しないことで合意したと報道したメディアによる単独報道
JYP の見解を伝える報道朝鮮日報 は、JYP が「協議中であり、確定次第案内する」と回答したと報じたJYP 自身の一次資料ではなく、報道を通じた確認
その他の観測メンバーの移籍や個人事務所設立に関する記事や投稿公式発表がないため未確認

結論として Agent は、JYP から再契約完了の公式発表は確認できず、確定情報として扱えるのは「協議中」という見解までである、と整理しました。ツウィや他メンバーの今後に関する報道は、JYP または本人から正式発表が出るまでは未確認情報として区別しました。

今回の結果から、Web IQ はモデルの知識期限より新しい情報を探し、複数の公開情報を時系列と URL 付きでまとめる用途に向いていることを確認できました。一方で、URL が付いていれば情報の質まで保証されるわけではありません。今回も JYP の見解は公式サイト上の一次資料ではなく、メディアが伝えたコメントを根拠にしています。実運用では、公式ドメインの一次資料、主要メディア、まとめサイトや個人ブログの順に情報源を評価し、一次資料を確認できない場合はその事実自体を明記する必要があります。

Web grounding tools は public endpoint として動作し、VPN や private endpoint の境界には従いません。また、検索へ送信したデータは Azure compliance boundary と Geo boundary の外へ流れます。内部情報をそのまま検索クエリへ含めず、利用規約、データ境界、管理者による利用制限を確認したうえで採用する必要があります。

サンプル構成:問い合わせ対応エージェント

小売企業の問い合わせ対応 Agent を例にします。利用者から、次の質問が来たとします。

昨日相談した注文がまだ届いていません。いまどこにあり、キャンセルできるか教えてください。

この質問に正確に答えるには、1種類の情報だけでは足りません。

手順必要なコンテキスト利用する IQAgent が行うこと
1昨日の相談内容、顧客とのメール、担当者Work IQユーザーが参照できるメールや会議から対象注文と経緯を特定する
2注文、在庫、配送の現在状態Fabric IQ顧客・注文・配送の関係をたどり、配送状況と遅延の影響を確認する
3キャンセル規程、返品条件、例外Foundry IQKnowledge Base から適用条件を検索し、根拠文書の引用を返す
4配送会社が公開した障害・遅延情報Web IQ現在の公開情報を検索し、参照元 URL とともに状況を補足する
5回答、連絡、後続作業Work IQ回答案を作り、必要に応じてメール送信やフォローアップを行う

論理構成にすると、次のようになります。

利用者
  ↓
問い合わせ対応 Agent
  ├─ Work IQ    ─ メール、会議、担当者、予定、アクション
  ├─ Fabric IQ  ─ 顧客、注文、在庫、配送、リアルタイム状態
  ├─ Foundry IQ ─ キャンセル規程、返品条件、製品マニュアル、引用
  └─ Web IQ     ─ 配送障害、最新ニュース、外部サービスの公開情報

この構成で大切なのは、4つの IQ が同じ情報を重複して持つのではなく、それぞれが得意なコンテキストを Agent へ渡すことです。Agent は質問に応じて必要な能力を呼び分け、最終回答を組み立てます。

小さく始めるなら

最初から4つすべてを導入する必要はありません。

  1. まず、最も価値が高くデータ準備ができている1領域を選ぶ
  2. その領域だけで回答品質と権限制御を検証する
  3. 足りないコンテキストを確認して、次の IQ を追加する

たとえば返品規程への問い合わせが多いなら Foundry IQ から始めます。配送状況の問い合わせが中心で、Fabric に注文と配送データがそろっているなら Fabric IQ が先です。担当者のメールや会議を起点に案件を整理したいなら Work IQ、外部の最新情報が必要なら Web IQ から始めます。

利用シーンから選ぶ

やりたいこと最初に検討するもの理由
自分のメールと会議から今日の優先事項をまとめるWork IQ個人の仕事の文脈と Microsoft 365 の操作が中心だから
会議内容を確認して、次回の予定を作るWork IQコンテキスト取得と予定表へのアクションをつなげるから
在庫不足の原因を店舗・商品・配送の関係から調べるFabric IQ業務エンティティの関係と現在状態を扱うから
設備データを監視し、異常時の対応を提案するFabric IQリアルタイムデータと業務ルールを扱うから
社内規程を横断検索し、根拠リンク付きで回答するFoundry IQ管理された Knowledge Base と引用が必要だから
複数製品のマニュアルを共通のサポート Agent で使うFoundry IQ複数 Knowledge Source を再利用可能な知識層へまとめるから
今日発表されたニュースや市場情報を調べるWeb IQモデルの知識期限より新しい公開情報が必要だから
公式サイトの障害・リコール情報を URL 付きで確認するWeb IQ外部の現在状況と参照元が必要だから
顧客案件の経緯、現在状態、適用規程、外部状況をまとめて回答する4つを組み合わせる仕事、事業データ、組織知識、最新の公開情報が必要だから

データの保存先だけで決めないことも大切です。SharePoint 文書を扱う場合でも、個人の仕事の流れで読み書きするなら Work IQ、組織の権威ある知識として索引化し複数 Agent で共有するなら Foundry IQ、というように目的から判断します。

導入前に確認したいこと

1. どの情報を正とするか

Agent を作る前に、メール、業務データ、規程のどれを正とするかを決めます。Fabric IQ のオントロジーや Foundry IQ の Knowledge Base を用意しても、元データの所有者や更新責任が不明確なら、回答品質は安定しません。

2. 誰の権限でアクセスするか

接続方法、実行主体、データが流れる境界は IQ ごとに異なります。特に Work IQ はユーザー単位の仕事の文脈を扱います。一方、Web IQ の Web grounding tools は public endpoint であり、検索データは Azure compliance boundary 外へ流れます。PoC で動かして終わりにせず、本番で誰が何を参照でき、どのデータを外部検索へ送ってよいかを確認します。

3. 回答の根拠をどう検証するか

Foundry IQ の引用、Fabric IQ のセマンティックモデルとオントロジー、Work IQ の監査ログ、Web IQ の参照元 URL など、回答やアクションを追跡できる設計にします。Agent の文章が自然かどうかだけでなく、元情報、権限、鮮度、再現性を評価します。

4. プレビュー機能をどこまで許容するか

2026年8月6日時点では、Fabric IQ と Foundry IQ の一部、および接続方法の一部にプレビュー機能があります。Web IQ でも一般 Web Search は GA ですが、Grounding with Bing Custom Search は preview です。プレビューは SLA や機能が制限される場合があるため、公式ドキュメントで利用する Item、Tool、API version の状態を確認し、本番要件に合うか判断します。

まとめ

Work IQ、Fabric IQ、Foundry IQ、Web IQ は似た名前ですが、Agent に与えるコンテキストが異なります。

まずは「Agent が答えるために不足しているのは、仕事の経緯、業務データの意味、権威ある知識、最新の公開情報のどれか」を確認します。1つで足りなければ、役割を重複させずに組み合わせます。

IQ という名称から製品を選ぶのではなく、必要なコンテキストの種類から選ぶことが、設計の出発点です。

公式情報源